恋の終わりはあっけない。「そろそろ結婚しようか」なんて話も出ていたのに、彼は新しく入社してきた若い可愛い新入社員にあっさりと乗りかえた。人の気持ちは変えられない。食欲もなくて、眠れなくて、毎日仕事だけなんとか行って帰る日々。
新宿駅のホームで大勢の人が行き交ってるのに、ふいに孤独に襲われて息が苦しくなった。湘南新宿ラインに乗って、会社のある恵比寿駅でおりなきゃいけないのに、そのまま気づいたら鎌倉駅まで来ていた。
さぼっちゃおうかな。
今まで無断欠勤なんかしたことないのに、ふらっと鎌倉駅に降り立つ。都内から1時間なのに、どうしてこうも空気が違うのだろう。段葛の桜並木を見ながら鶴岡八幡宮にいってみた。境内では結婚式だろうか。和装の花嫁が幸せそうに微笑んでいる。私はどうして自分をもっと幸せにしてあげられなかったんだろう。
二階堂の覚園寺にいこうと思って、雪ノ下で目についたイタリアンレストランに入る。シンプルなトマト味のパスタ。ひさしぶりに食事が美味しいと感じられた。店を出ると隣の古いマンションに空き室ありますの札。「雪ノ下マンションか、、」地味で、古くて、私みたいだな。
内見どうぞ、と声をかけられて入ってみた。
中はリフォーム済みらしく、キッチンもお風呂も新品で今すぐ生活を始められそう。通りに面しているからもっとうるさいかと思ったのに、思ったより静かなのもいい。窓から鎌倉の山々が見えた。ここで、暮らしたらどんな感じなんだろう。
電動自転車を買って、週末は海にお寺に鎌倉中を回ってもいい。
幸い仕事だけは真面目に続けてきたから、それなりの蓄えもある。つらい思いをさせてしまった自分に、ご褒美をあげたい。誰かがまた私のココロの鍵をあけるまで、私はこの家でゆっくり待つことにしよう。
雪ノ下で、きっといい恋がはじまる。
※令和元年 室内リフォーム済み
(す)
